□もう一つの武相決戦
よく「町田は神奈川」とイジられますが、確かに地図的に見ると東京都としては少し異様な端っこにある町田。実際に神奈川だった時代もあるわけですが、なぜ東京都で落ち着いたかというと、「武蔵国だったから」という歴史的な要素もありそう。それを言ったら川崎とかも武蔵国ですけど。
ともあれ武蔵国ゆえ、相模原との対戦は、すぐお隣さん同士とはいえ〝武相決戦〟と自称していた。相模原はもちろん相模国。要するに神奈川西部が相模国なんで、必然的に小田原のあたりも相模国なわけですが、そんな小田原の近郊に「大友」という地名があって、そこを〝名字の地〟としていた一族の後裔が大友宗麟だったりします。大分が誇る戦国大名ですね。つまり、町田vs大分は、町田vs相模原に負けず劣らずの〝武相決戦〟といえなくもないのです。
□首位攻防戦であり、高体連とクラブユースの決戦でもある
それにしても、日程発表時にこの試合の観戦予定を立てた際には、まさかこれが1位2位対決になるとは夢にも思わなかったよ。まず町田が前節に陥落したとはいえ首位に立つという発想がなかった。さすがは黒田さん。青森山田を高校ナンバーワンにまで育て上げた高体連の名将だけあります。
とはいえ、そういう部分では一躍首位に躍り出た大分を率いる下平監督も負けません。下平さんは下平さんで育成の名将でした。なんせ柏ユースをクラブユース選手権優勝に導いた実績を誇りますから。それだけでなく、年代的に見る限り高校時代の中村航輔やら中川寛斗やら中谷進之介やら中山雄太を指導したのが下平さんということになるはず。カタログ上の育成実績という意味では下平さん、黒田さんにまったく引けを取らないのですよ。
まさにこの試合は、もう一つの武相決戦であり、育成の名将対決であり、そして何より首位攻防戦。ワクワクが止まらないのです。
□圧倒的な構図
さてオンザピッチ。ここのところデュークを欠く町田ですが、それに伴い戦術も微調整されている模様。デューク不在だと、そうそうロングボールで勝てませんので、引き付けてロングキックみたいなやり方は封印、その代わり猛烈な前プレをかけて相手のミスを誘い、ショートカウンターを仕掛けるというサッカーでした。その分、藤枝戦に比べて高江と高橋がボールに絡む機会も多かった。
町田はショートコーナーから、翁長がお洒落なトリックを繰り出して大分守備陣を一発で崩すと、荒木が決めて先制する。そこからは町田が前プレの圧を高める。すると相手の猛烈前プレスに落ち着きを失った上夷はPA内でプレゼントパスを荒木に届けてしまい、そのまま荒木はこの試合2点目を決めました。さらに町田はディフェンシブサードでのパスをまんまとカットするや、荒木を経由して最後はエリキが決める。前半だけで3-0です。
ポジショナルの大分は低い位置でGKを加えたパスワークで相手を剥がしてから攻めたいのですが、そこでことごとく奪われてしまう。ある程度押し込んでも、結局、町田の守備網にひっかかり、そこからのミドルカウンターに翻弄される。定石のWB裏は当然のこと、大分3CBはラインを揃えてオフサイドを取るって感じではないので、上夷とペレイラあるいはデルランの間にできてしまう危機的なギャップを簡単に使われてしまう。大分的には手も足も出ないってレベルの前半45分だったのではないでしょうか。
□一矢だけ報いる
前半は全く繋げなかったので、いっそうのこと長沢を投入してロングボールを増やせば良さそうだと考えていたら、下平さんは、むしろそこで上夷を下げて宇津元を投入。4バック(4123?野嶽と野村が並んでたと思う)にして打開を図ります。このシステムだとアンカーに配置された弓場が王様になりますね。最終ラインからボールを引き出すのはほぼ弓場。左右に展開するのも弓場。なんなら、相手のカウンターを初期消火するのも弓場だったりします。
で、実際に一気に押し込めるようになったのですが、その分だけ町田のカウンターも鋭利さを増す。ペレイラとデルランのCBコンビがエリキと丁々発止だったわけですが、デルランは前だけに強いらしく、エリキに翻弄されることもしばしば。ということもあってか下平監督はデルランと安藤をスイッチ。先発したCB2枚がケガでもないのに試合途中に退くって、なかなかのことかも。
ともあれ、せっかく流れが良くなった大分に更なるアクシデント。高畑が脳振盪の疑いで交代を余儀なくされる。スクランブルで梅崎が投入されるとかえってボールの回りが良くなり、一矢報いる宇津元のゴールも生まれましたが、深津を投入して5バックにした町田の守備組織は乱れない。ホームに厳しいジャッジが続いても平常心を失わない、藤原もいなかったし。時間の経過とともに大分の反撃モードもトーンダウンして、高体連の名将がクラブユースの名将を貫禄で押し切る一戦となりました。