□市域深奥部ダービー
ここ数年の町田は、開き直ったプロモーションをしていますよね、スタジアムへのアクセスについて。お世辞にもアクセスが良いとは言えない町田市深奥部のスタジアムを〝天空の城〟と銘打ってドラクエモードの演出をしています。同時に多摩センターなどからのシャトルバスも充実させているわけですが、正直、シャトルバスでは意味がない。野津田車庫なり神学校のバス停から登山してこその天空の城なわけで。
で、スタジアムの立地的には藤枝も似通った印象がある。最近はアクセスも改善されつつあるみたいですが、かつてはシャトルバスがなくってコミニュティバスの最寄りバス停から20分ほど歩かないといけなかった。コミニュティバスだから本数は極少だし、最寄りバス停から一山登るしってんで、深奥部感は野津田に負けず劣らずだったんですよね。そういうわけで、この試合はスタジアムが市域深奥部ダービーです。
□名将並び立つ
それにしても黒田さんは自身がリアル名将であることを証明しまくってますね。高校サッカーの名将といえば80年代後半に勇名を馳せたお歴々が思い浮かびますが、その世代の中では比較的若めの布さんでさえ、プロの指導者としては苦戦気味。それらの世代の驥尾といえるのが前橋育英の山田さんで、黒田さんはもう一つ下の世代。遅れてきた世代だけに戦後モデルと現代モデルを上手いことハイブリッドできているということかもしれません。
藤枝の須藤さんも引けを取らない名将。J3降格後低空飛行を続けているガイナーレ鳥取を唯一浮上させた男で、万年J3が定位置化していた藤枝をあっという間に昇格させました。一説によると元YS横浜、現パルセイロのリヒャルトと双璧をなすくらいに試合中の言動が見苦しいらしいですけど、郷に入っては郷に従え、プロスポーツの世界にはプロスポーツの世界の流儀ってものがあるわけで。文科系や帰宅部の上品なノリでやーのやーの言ってもしかたありません(当方、大学まで体育会)。
□ポジショニングがミソ
さて首位に立つ町田の好調要因を探りながら観戦すると、ポジトラのクオリティが圧倒的に高い。ボールを奪った瞬間に2トップ+2SHのうちの1〜2人がスペースに走り込んでフリーになる。正しい準備、正しいポジションを取り続けることでフリーの選手を作るという意味では理念的にはポジショナルみたいなもの。守備でブロックが崩れないのも正しいポジショニングへの約束が徹底されているからでしょうし。というよりも、そもそも日本のサッカーは1対1のしばき合いの集合体というより、いかに数的優位を作るかを追求してきたわけですから、本質的にポジショナル的要素を内包しているのかもしれません。
対する藤枝は3バックなのですが、左CBの鈴木と真ん中の川島が4バックのCBみたいに開いてビルドアップする。間にはボランチ(主に新井)が落ちて3枚回しになる。右CBの小笠原はオーバーラップしないSBみたいな役割になる。多少エセボランチにもなりますが、基本的にはオーバーラップしないSB。ちょっと珍しいオーソライズかもしれませんね。
試合は序盤に動く。町田の簡単な放り込みに藤枝のキーパーがキャッチしようとジャンプしたのですが、隠れていたエリキがヌッと出てきて、藤枝GKがエリキに競り負けてしまった。こぼれたボールをデュークが蹴り込んで町田が先制すると、前半は、「藤枝が丁寧にビルドアップして押し込む→引き込んだ町田がひっくり返す」を無限ループで繰り返すような展開となりました。
□4人のCB
町田はリードしているにもかかわらず後半開始とともに沼田を投入します。前節でもしっかり潰れ役になった沼田ですから、ターゲット役をさらに増やして3枚にして、よりセーフティファーストに蹴っていこうということだったと思われます。また藤枝のプレスの強度を踏まえると、この日は高橋のテクニックを求めがたい日だと判断したのかもしれません。
追いつきたい藤枝はJ2としては個のクオリティで勝負できるって位置づけではないはずですが、そんなことはお構いなし。町田守備陣が固めまくる中央にクサビをビシビシと突き刺していきます。全く怯まない。爽快です。またPA内なりアタッキングサードでガンガンに勝負を仕掛けていきます。全く怯まない。痛快なのです。
地理的共通性も踏まえて、藤枝のサッカーは方向性として静学スタイルにも見えます。相手の町田はもちろん青森山田。つまりこの試合は高校サッカーで例えるなら〝青森山田vs静岡学園〟みたいな構図だったといえる。一見すると塩試合に映ったかもしれませんが、実に趣深かった。ただ、町田にはエリキとデュークという、高校サッカーでいうところのプロ内定者がいるわけです。対する藤枝はオール日本人。いわばプロ内定者のいない静学なわけです。さすがにこれでは分が悪い。町田は町田で鉄壁の逃げ切りモード。3CBにした上にボランチの位置にまでCB本職の藤原を入れてきた。残念ながら藤枝にその鉄壁の盾を突き破る鉾はなく、1ー0のままゲームセットとなりました。