□パンダダービー
往年の石川さゆりの超名曲「津軽海峡冬景色」、“上野発の夜行列車降りたときから〜♪”なわけですが、幼きワタクシは、“夜行初の上野列車降りたときから〜♪”と歌って親をはじめとする周囲の大人を困惑させていたらしいです。まあ、集団就職の世代の歌ですよね。で、集団就職といえば北国。冬は雪で農業が立ちゆきづらい地域の金の卵が、東京の北の玄関口に押し寄せていた。田中角栄以前の新潟といえば、そういう地域。
そんな上野駅の存在感は、ここ10年程で著しく低下したものです。それもこれも上野東京ラインが出来たから。開通当時赤羽住民だったワタクシとしては、革命的に便利になったと感動したものですが、上野駅はただの通過駅になってしまった。とはいえ宇都宮線や高崎線に比べて、常磐線はそれでも上野駅の存在感が残っています。なんか、常磐線って独特の治外法権観がありましたよね。それこそ10年程前は普通にローカル車両のボックス席で、おっちゃん達が明るいうちから酒盛りしていたし。ともあれ、新潟も柏も「東京との出入り口といえば上野」という点で共通しており、それゆえ、この一戦はパンダダービーなのです。
□裏天王山
さて、時代が時代なら懐かしのムーンライトえちごで乗り込んできたであろう新潟ですが、リーグ戦ここ5試合の成績は0勝1分4敗。順位は16位です。ルヴァンカップ快進撃の影に隠れて、リーグ戦の成績は、なかなかの危険水域。この試合で敗れるようなことがあれば、俄然どっぷり残留争いの主役になってしまいます。退任が報じられた力蔵監督としては残留の置き土産を残したいところでしょう。
迎え撃つ柏は1勝2分2敗の17位。今シーズンずっと「油断すると危ないぞ」って順位だったのが、秋になって他の下位チームが謎の大復調を果たしたこともあって、あっという間に残留争いど真ん中。いやあ、まさか残留争いをするのが湘南ではなく沼南になるとは……。柏の場合、FC東京やガンバみたいな「うっかりJ2降格」なクラブの中でも、うっかり降格癖が強く染みついていますので、ちょいと心配です。
□前半はスコアレス
というわけでピッチに目を移します。まずアルビレックスですが、噂の特別指定CBの稲村が先発出場。稲村いえば、令和なら亜美、平成ならジェーンですが、相方が舞行龍ですので、この場合は稲村ジェームスですね。落ち着き払ったディフェンスリーダー感が頼もしい。それから橋本と長谷川という、J2の青いチームからやってきた2人が、攻められてからの陣地回復でクオリティを見せていました。補強が的確です。
一方のレイソルは、序盤から細谷とサヴィオという2枚看板がキレキレです。Jリーグを見渡しても屈指のタレントが、これだけキレキレなのに、なぜこの順位なんだ?まあ、ある程度理由は推察されますが。木下も含めて前線のタレントが個で相手を剥がしすことで攻撃の形ができるのですが、裏を返すと構造で相手を剥がすってことができていないという話でもある。個での剥がしだと、どうしても相手にパターンを読まれますよね。
そんなこんなの前半の攻防ですが、序盤は一気呵成にレイソルが攻めたてる。スコアを動かすのも時間の問題かと思われる一気呵成ながら、そこでスコアを動かせない。そして時間の経過とともにアルビレックスのポジショナルが軌道に乗る。気がつけば、アルビレックスが圧倒的にボールを持つようになってましたが、疑似カウンターを食らわないためにレイソルが相手ビルドアップに食いつかなかっただけかもしれません。スコアレスで折り返します。
□魂の細谷と新潟のドラマチックモード
前半からそうだったのですが、後半に入ってからもダニーロ・ゴメスvsジエゴの丁々発止が面白かったですね〜。ブラジル人同士、良くも悪くも波長がシンクロしてしまうということでしょうが、特にダニーロ・ゴメスが面白い。時々いるタイプで、とにかくファウルを受けたりしたときのアクションが大げさ。息を吸うように審判にアピールする、何度でも何度だってアピールする。もはやアピーラーといって過言でない。そしてやりすぎて審判にガチギレされると、日本流のお辞儀をして反省を装う。面白いです。
後半の中頃からは両指揮官の知恵の絞り合い。井原監督は木下に替えて熊澤を投入したのですが、熊澤ってボランチじゃなかったの?ルヴァンいわて戦のイメージしかなかったよ。対する新潟は満を持して小見と長倉というWジョーカーを投入。この時間帯に、このWジョーカーが入ってくるのは厄介です。ただ、それなりに両者ともらしさを発揮していた一方で、なかなかボールが届かないって場面も多かったですね。
スコアは後半の30分頃に動きます。流れの中からはほとんどチャンスを作れない状況で、コーナーキックから細谷が魂の先制ゴールを決めました。そして、リードしてからは、それなりにちゃんとした逃げ切りモードで時計の針を進めていきます。アルビレックスにも手詰まり感が漂う。……んが!! アルビレックスのドラマチックモードはルヴァン決勝から継続していたらしく、ほぼほぼラストプレーで藤原が同点ゴールを決めてみせました。レイソルの選手はがっくし、!サポーターはかっくししながらも、試合終了後はスマホで磐田vsガンバのハチャメチャな展開に釘付け。そしてハチャメチャな展開の末に磐田が敗れたことで、結果的に両者とも悪くない引き分けということになりましたとさ。