□俵物三品ダービー
仙台と長崎。東北と西九州、だいぶ遠い。東西差でいうと列島の端と端くらいの感覚。たぶんヴァンラーレの方がベガルタより東端だと思いますが、ともあれ地理的に遠い両クラブにも共通点はあって、真っ先に思い浮かぶのは手倉森監督ですね。第一次政権時代のベガルタで見せた手腕は見事でした。その後、フロンターレやらオリンピック代表やらの監督を経て長崎の監督に。この頃から微妙になりましたね。仙台での第二次政権時代は長崎から連れてきた氣田を重用して批判されたり。
ご当地柄でいえば、宮城県の名産には牛タンとかもありますが、不幸な出来事もありつつも、やはり海とともにリアス式海岸とともに生きてきた土地。海の恵みも享受していて、古典的な名産品はフカヒレですかね。どれくらい古典的かというと、“俵物三品”として江戸時代から日本を代表する輸出品でした。そんな俵物三品が中国に輸出される際の窓口が長崎。ゆえにこの対決は俵物三品ダービーなのです。
□6ポインターではある
さて、神戸空港でスカイマークを乗り継いで乗り込んできた?V・ファーレンですが、今シーズンここまで2勝1分0敗の4位。まずは幸先のよいスタートダッシュになったと言えるでしょう。そのあたりは安定の下平監督です。この監督は選手の能力の足し算をそのまま順位に代えられる。ゆえにJ1での横浜FCや、直前に指揮を執っていった大分での成績は、リーグにおける強化費の順位をそのまま反映したものになった。
迎え撃つベガルタは、今シーズンここまで2勝0分1敗で5位。つまりこの長崎戦は時期が時期なら4位と5位の6ポインターということになる。時期が時期でなくとも6ポインターではあるのですが、さほど大きな意味を持たない6ポインター。ベガルタを率いるのはご存知ゴリ山さん。就任初年度はまずまず悪くない成績でしたので、真価を問われる2シーズン目ということになります。加えて育成のスペシャリストとしての手腕にも期待を禁じ得ません。
□1点ずつ取り合う
というわけでピッチに目を移します。まず、V・ファーレンですが、下平さんって昔からポジショナルなのかポジショナルじゃないのか、よくわからないサッカーをしますよね。5レーンを作りやすいフォーメーションとか、GKを含めた最終ラインでの回しとか外面上はポジショナルっぽいんですけど、じゃあ、相手を引き込んでバラして一発で裏返しにかかるかというと、そうでもない。敢えていうなら、相手を牽制しつつバラしてCFへの縦刺しを虎視眈々と狙うようなスタイル。
一方のベガルタは、守備陣が目立ちました。なんせ4バックの中では真瀨が身長的に最も小さいんですけど、それでも175㎝ある。左SBの石尾は180㎝オーバー。高いんですよ。そういうこともあって構えて守る。あるいは構えて守るから、長身の選手が選ばれる。構えて守る分、フォアプレスはさほどではない。ときおり荒木がチェックに走りますが、ハーフラインを越えるまではある程度持たせる感じ。アンチポジショナルとさえ言える。
ということで、ポジショナルの亜流と反ポジショナルという組み合わせの両チームによる攻防だったわけですが、先手を取ったのは長崎。相手が構えて守るならブロックの外から打ってしまえとばかりに増山のミドルシュートが決まりました。弾道はボテボテだったのでリフレクションがあったのかしら? しかしベガルタも引き下がらない。先制を許したすぐ後に左SBである石尾がPAにまで進入して、右45°なシュートを決めました。同点でハーフタイムを迎えます。
□キックオフ時とは逆の構図に
仙台のビルドアップで特徴的だったのはダブルボランチの武田と鎌田が縦関係になり、3枚回しに落ちた武田が前目の鎌田に刺して、鎌田が叩いて戻したボールを菅田や井上が展開するというパターン。そうか武田の使い方って、こういうところにあったのか。すっかり360°首を回しながらポジションを間断なく微調整するタイプの選手になりましたね、武田。その一方で「青森山田のエースでした」ってプレーは少なくなってしまいましたが。
他方、下平版の長崎はもともとあんまり攻撃で人数をかけたり、鮮やかなプレーが連発するってチームではないのですが、その中で目を奪われたのは山口蛍。守備ではなく攻撃のキーマンになっている。やっぱりワールドカップに出た選手ですからね、視野が広い。それから元欧州組だけあってパスレンジが長い。ミドルパスのクオリティが高いです。ただ、なかなか途中出場のエジガル・ジュニオやギュレルメを生かすってところまでには至りませんでした。
終盤は郷家友太をトップ下にスライドさせた仙台が、鎌田・郷家・松井蓮之が中盤逆三角形を構成する433っぽくなって、ポジショナル的な裏返しを連発したのに対し、ジェズスをトップ下にスライドさせた長崎はほぼ完全な442に。日本型各駅停車系ショートパスサッカーになりました。キックオフ時は構図が逆になったわけですが、どちらもゴールをこじ開けることはできず、スコアレスでタイムアップを迎えたとさ。