□「アジエル現象」と名づけよう
天皇杯で、相手が下位リーグ。しかも必ずしも調子が良いわけではない。去年までの浦和なら、いかにも足元を掬われそうなシチュエーションですよね。とはいえ、偶然か必然か、然るべき指揮官を招聘できた今シーズンは、これまでとは違うかもしれない。果たして?
聖地駒場に乗り込んできた相手は相模原。昨シーズンの相模原は、ユーリとホムロという反則飛び道具の無双によりJ3を駆け上がり、まるでワシントンとかエメルソンとかがいたブッフバルト時代のレッズみたいだったのですが、今年はうまくいってません。ユーリもいまいち、ホムロは帰国しちゃったよ。こういう、「下位リーグで無双して昇格の原動力になったのに、上位カテゴリーに上がった途端、(クオリティが通じないとかではなく、コンディションとかそういう事情で)試合に出れなくなる現象」を、仮に「(かつてのベルマーレにおける)アジエル現象」と呼んでいるのですが、相模原はまさにアジエル現象に苦しんでおります。
□「序破急」の「序」
サポーター心理としては格下相手にゴールショーを期待したいところですが、リカルド・ロドリゲス率いる浦和は、無理に攻め焦ったりはしない。クサビが入ってからは一気に縦に繋いでいきますが、それができるシチュエーションになるまでは焦らない。急ぐことを急がないというか、序破急でいえば「破」があっての「急」であり、そのためには「序」を大切にする。そこが「序」も「破」もなく「急」だけを求める、現在のネルシーニョレイソルとの違い。
対する相模原も、ある意味で浦和と相似形。しっかりリトリートして、状況が整うまでは何度も守りなおす。攻めなおすのではなく、守りなおす。偶発的に「破」が発生すれば、「急」に移行もしますが、強引に陣地回復するようなことはしない。「逆カウンターだけは受けない」という意識が徹底されている印象を持ちました。
□ユン様、以上。
というわけで、前半は「破」の先を与えるかどうかの攻防。退屈といえば退屈ですが、見応えがあるっちゃあ、あった。浦和の誤算は山中が負傷交代したことでしょうか。明本が緊急投入されます。いくら「私の辞書にオーバーワークの文字はない」ことでお馴染みの明本でも、さすがに今日はお休みしたかっただろうなぁ。
時間の経過とともに攻めあぐねの色が濃くなった浦和は、たまらず興梠と武藤に代えて、本来なら温存したかったであろうユンカーと小泉を投入します。交代の際にゴール横からアウトした興梠、ぐるっとピッチ脇を歩いて戻ってきて、ちゃんとわざわざリカルド監督とグータッチしてから下がっていったので、二人の人間関係が微妙とか、そういうことはなさそうね。ともあれ、試合は浦和的に「やだなぁ、やだなぁ(稲川風)」ってなりかけたところで、ユンカーが一人でボールを奪い、一人でドリブルして、一人でシュートを決めて相模原を下しました。
□頑張れ、柴戸
たぶん後半からだと思いますが(前半もそうだったらすいません)、浦和は金子が完全に2CB間に落ちる形になりましたね。一つにはビルドアップをよりシステマティックにしたいということが目的にあったものと思われます。で、もう一つには前がかりになる中でのリスクマネジメントでしょうね。前半から“突撃、隣の晩まきの”が何度か発動していましたし、できれば明本を高く上げたいし。
ただ、そうすると高い位置でのプレーを担当せざるを得なくなる柴戸の攻撃での物足りなさが露呈してしまったりもした。特に選手交代の後は、ユンカーは組み立てにはあまり参加しないし、小泉はワイドに開いてボールを受けたがるし、っていう中で「真ん中で受ける人がいない」って現象が発生すると、柴戸がいろいろ捌かなきゃいけないシーンも増えてしまって、本人的には損な役回りを押し付けられた感もなくはなく。ただ、こういうマターを丁寧にこなしていくことで監督の信頼は得られるのでしょうから、とりあえず、まあ、頑張れ。
□浦和の底力
いやぁチケット争奪戦を制しましたよ。さすがは圧倒的な観客動員を誇る浦和だけあって、そうそうチケットが取れません。圧倒的な観客動員といっても、もし現在の川崎が浦和と同じ箱を持っていたら肉薄するかもしれませんが、ACLを制した年を中央にした前後10年くらいは、「観客動員数といえば浦和」って時代でしたよね。そこの底力はいまだに健在、チケットが取れない、取れない。
それもこれもマンボウがいけない。ちょっと、世界最大級の硬骨魚だからといって、臆病ですぐ死んじゃうって噂があるにもかかわらず、人間社会に謎の影響力を及ぼして、5000人しか入れなくしちゃうもんだから、平日の天皇杯でもチケットが10分で売れ切れてしまうわけですよ。Jリーグチケットの回線が丈夫で発売時間ピッタで繋げたので購入できましたけど、5分後にはほぼ売り切れ。いやはや恐るべし。
コロナ前でもカードによっては2万人台にまで動員を減らしてましたが、そのうちの5分の1以上は“岩盤支持層”なのですね。あっぱれ。