執念の逃走劇〜東京ヴェルディvsカターレ富山(9月20日)の周辺をウロウロと…☆現地観戦記☆

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残留をうらなうという意味で、なかなかシビアな一戦。

■前半

苔口の先制点は前半の10分くらいだったでしょうか。左サイドから繰り出された大きな展開のフィードに反応して、ヴェルディ守備陣の裏をとると、見事なコントロールでシュートを決めました。このゴールで、ようやく富山はサッカーらしいサッカーができるようになりました。なんせ、キックオフからそれまでの時間帯、富山の選手たちは、何かに憑かれたように動きが重かった。足が伸びない。連動できない。もう一歩が出ない。そんな感じ。

  

 

別に選手個々の基本的な能力とか心構えとか、そういう問題ではないと思うのですよ。例えば札幌から加入した前貴之。彼なんかはエリートコースの真ん中で育ってきた選手。その前貴之が、あんなに縮こまったプレーをするものかね? そんな感じなのですよ。これを“負のスパイラル”というのでしょう。リーグ戦で負けがこんでくると、選手個人の努力では克服しようのない“空気の重さ”に包まれる。そして、それは否応なくプレーに影響していくのですね。

 

 

ところで、今年の夏は、ワタクシたち世代には少し懐かしい世界観を持つ映画が上映されました。能年玲奈さんが主役(ですよね?)の『ホットロード』のことです。なんと、主題歌は尾崎豊、こみ上げてくるものがあります。そして、素材は「暴走族」、あるいは「バイク」なのですが、こういう世界観についてワタクシが真っ先に連想するのが「Jim&Janeの伝説」です。「アイツは峠でバイクを走らせ、星になったのさ」みたいな。チェッカーズの歌です。「song for USA」の、あのチェッカーズでございます。

 

 

要するに80年代。日本が高度成長期以来の夢現から醒めようとしていた、あの時代。若者はバイクに乗っていた。不良が寂しい心をぶつけ合っていた。そんな時代相を最も象徴的に歌い上げていたのが、中村あゆみさん。そうですね、『翼の折れたエンジェル』ですね。「何の話だ?」ってことですが、つまり、序盤におけるカターレの選手たちの動きは、『翼の折れたエンジェル』そのものだったってことです。「みんな飛べないエンジェル」だった。ってな話。

  

 

■後半

話をサッカーに戻しましょう。後半の開始とともにヴェルディは平本を投入してきます。この人も、ホント、80年代の青春映画に出てきそうな、「心寂しき不良」ですよね。スニーカーとかペアで揃えそうですもん。そんな平本も、いまやベテラン選手。スタイル的には鈴木隆行みたいなプレーでチームを落ち着かせる。経験豊富な選手ですから、プレーの一つ一つに貫禄があります。そんな平本の登場で、後半のヴェルディは富山をハーフコートに押し込みます。

 

 

それにしても平本、なぜ先発で使われないんですかね? 前線の起点としては、これ以上ないタレントだと思うのですが。あるいは、コンディション的な部分でキレが不足しているのでしょうか。この試合でも、必ずしもゴール前のチャンスに毎回毎回飛び込めているってわけではなかったですし。それから、もう一つこの試合でも典型的だったのですが、相手がベタ引きになると、「平均的な1stトップ」になってまうってのもあるのかもしれません。ドリブルするスペースがあると、ときどき確変するんですけど。

 

 

話を富山に移します。連敗地獄真っ只中の富山はとても割りきった選手交代を見せました。まず、後半の10分という時間帯でレジスタ系の井澤からハードワークのできる大西にスイッチ。そして、苔口が傷むと、サッサとDF登録の平出を投入。その後、人の入れ替えはあれども、攻守のバランスを踏まえた343から、専守防衛の532(5人のDF、3人のボランチ、2人のフォアチェック要員)に陣形を改めて逃げ切りを図ります。

 

 

中途半端に追加点に色気を出さず、ただ、ひたすら相手の攻撃を跳ね返し続ける。ボールを掃き出せば、とにかく走り回ってプレスをかける。試合終了とともに多くの選手が倒れ落ちましたが、それも納得な素晴らしい「気合いのディフェンス」だったと思います。それから、GKの広永が安定していましたね。シュートが真っ正面に飛んでくるというラッキーもありましたが、それも含めて、FC東京育ちですし、味スタを味方につけていたのでしょう。

 

 

■日本代表への推薦状

□推薦者

・日本のバックスタンド

□推薦理由

ワタクシがスタジアムのスタンドで、最も愛してやまない光景、それは、2〜3歳くらいの子どもさんが階段をちょこちょこと登ったり降りたりしている光景ですね。この日も見られました、そういう微笑ましい光景。一方、スタンドで時々お見かけするのは、「ホントにチームを応援する気があるのだろうか?」と思ってしまうくらい、キックオフ直後からフルスロットルでピッチに向かって怒号を飛ばし続ける人。

 

 

こういう人って、1点差で勝っているときになると、いっそう罵詈雑言とも言える咆哮をかましません? そのへんの精神状況を斟酌するに、「追いつかれてしまうんじゃないだろうか」という恐怖心から冷静さを失って、ついついヘンなことを叫んでしまうんだと思うのですね。この試合にもいましたよ。愛する選手の悪口しか叫ばない“サポーター”さん。普通、常識をわきまえた大人ならば、本人と無関係なイエローカードの場面で、「秋本、ヘタクソだから引退しろ!」とか叫びますかね? ともあれ、階段をチョコチョコ歩く2〜3歳の子どもと、愛するチームのために冷静さを失う“年齢上は大人”が共存して、トラブルが発生しない平和な空間、それが日本のサッカースタジアムなのです。