□天下の名城ダービー
ルヴァンということで実現したカテゴリー違いの一戦。毎年、この時期にお休みを頂戴するワタクシは極寒のナイトマッチへ参戦です。福島県といえば東西真ん中と縦に三分割して文化が形成されているわけですが、いったんそこを一緒くたにして福島県という括りで考えると、なんといっても会津若松城が思い浮かびます。となれば熊本には熊本城。一方は戊辰戦争で落城し、他方は西南戦争の激戦地となったという意味でも因縁を感じさせます。
ワタクシ、2022年の秋に初めて会津若松を訪ねたんですよね。さざえ堂とか。もちろん会津若松城こと鶴ヶ城にも行きましたよ。……リニューアル工事中だったよ。でもね、天守閣のリニューアル工事中には慣れているのですよ。熊本城が地震で大被害を受けてから、毎年一度は熊本城を訪ねるようにしていて、復興していく様というか、クレーンに吊される様を見てきましたので。ってなわけで、この一戦は天下の名城ダービーです。
□悪くない同士
さて、意気揚々とみちのくに乗り込んできた熊本。ここまでリーグ戦3試合で1勝1分1敗ですが、負け→引き分け→勝ち、ですので尻上がりに調子を上げている形ではあります。これまで慣れ親しんだ3313というか343というか334というかではなく3412に挑戦しているんだとか。もちろんトルシエ時代みたいな、フラットスリー+古典的ゲームメーカー+1st&2ndトップってことはないでしょうし、どういうものかと興味津々。
受けて立つホームの福島は、J3のややこしい日程配分もあって、現状まだ2試合で1勝1敗。悪くない。特に新人監督であることを加味すれば。その新人監督とは寺田周平さん。そうか福島、湘南閥から川崎閥へ乗り換えたのか?これまでは湘南との交流が深かったと思いますが、今シーズンは寺田監督だけでなく、松長根とか大関とかも所属していますし、寺田さん、なんか吾妻小富士とか磐梯山とかより背も高そうですし。
□熊本の貫禄
というわけでピッチに目を移します。まず熊本ですが、確実にターンオーバーしてるんですよ。でもね、なんか、ターンオーバー感がない。というのも、去年の主力がズラリと並んでるんです。松岡とか藤田とか大本とか。去年と今年とで、けっこうレギュラーの顔ぶれが変わったってことですね。注目のシステムは34+似非9番+2WGという配置。メッシをCBに置く3トップに近いが、2トップの実態が2WGってところがミソですかね。
一方の福島もJ3としてはネームヴァリューをある面々がターンオーバーしてスタメンに並びます。中でも樋口が中盤でなくCFとして出てるのが熱い。それをマークする熊本3CB中央は岡崎が先発してるのも熱い。システムは4123。ゆえにサイドに2枚いる、ことになっている。にもかかわらずSB裏をまるでWB裏のように使われまくりでした。それはつまり、熊本の2トップがそれぞれ大外のレーンを突いていたということです。
試合はキックオフ直後に動く。「熊本トップ下の藤井って誰?」ってスマホで調べているうちに藤田が決めたみたいです。その後も熊本は疑似カウンターからの裏返しで決定的なチャンスを量産する。量産するんですがシュートを外す。大崎とか、松岡とか、大崎とか、大崎とかが。で、こういうときはどうするか?そう、足で決まらないなら頭で決めれば良いのです、と言わんばかりのヘッドで大崎が追加点をあげました。
□福島の快哉
リードを奪われた福島ですが、決して悪くはなかった。ボールを奪うや、チーム全体として勢いを持って、かつ、小刻みなパスワークでペナルティエリアへと中央突破していく。J3なのに、めっちゃリズミカルに繋ぎまくる。そうなんですよ、数年前の川崎フロンターレそのものなのですよ。特に目立った選手を挙げると、前半は左サイドの森。フリーマンであるかのようにハーフスペース、さらには真ん中のレーンにまで入っていってリンクマンとなっていた。
目立った選手、後半は針谷ですかね。後半だけでなく前半からキレキレでした。どちらかというとフィジカルの短所があげつらわれるタイプでしたが、相性の良い指揮官と出会いましたね、マジシャンであるかのように躍動しまくり。ドリブルで2枚3枚剥がしてペナルティエリア内にドリブル突破してくんだもん。凄いよ。組み立てでも奪われないし。熊本もそうだったのですが、福島は確実にターンオーバーしているにもかかわらず、「今年はこういうサッカーを追求しているんだなあ」ってのがありありと伝わってきた。これはなかなか凄いこと。熊本はもちろんとして、今シーズンの福島、ひょっとして台風の目になるかもよ。
しかも時間の経過とともに福島が熊本を上回るようになっていったんですよね。具体的には福島がGK含めた最終ラインで繋ぐ→熊本がボランチを含めてストーミング→ボランチが出た分できたCBとのギャップを福島が突く、みたいな応酬がタイムアップまで強度を落とすことなくスリリングに繰り返された。実際に福島は試合終了間際に矢島が意地のゴールで一矢報いましたし、いやいやいや、まさかルヴァンカップ初戦でこんな試合が見られるとは夢にも思ってなかったです。天晴れ。