■日本U23 3 vs 0 イランU23[AFC U23選手権 01月22日]
いやぁ、グループリーグとは同じ大会とは思えなかったですね。イランが強い。序盤からスコアレスのまま進みましたけど、球際であるとか、ドゥエルの部分だとか、中盤の攻防だとか、攻守の切り替えからのビルドアップだとか、イチイチ全部のレベルが段違いに上がっていた。もともと手倉森戦術は受けに回ることを前提にしているところがあるので押し込まれているように見えるってのもあるんですけど、それを差し引いても、“リアルガチで互角”って感じでした。
こういう10回やったら5勝5敗になりそうな相手を向こうに回して、決勝トーナメントの一発勝負ですからね。ヒリヒリ感が止まらない。グループリーグとは“負けたら終わり”というプレッシャーが段違い。まだ準決勝や決勝に関しては、五輪出場権という意味において、負けても次がある。でもこの大会を通じて唯一準々決勝だけは、ホント、負けたら全てを失う。しかも相手は、この年代が何度も苦渋を舐めさせられてきたイラン。見ているこっちが緊張感で押しつぶされそうだったよ。
おそらく、そういうヒリヒリ感マックスの一戦ということを踏まえて、手倉森さんは、この試合のスタメンをチョイスしたのではなかろうか。初戦で堅くならずいつもどおり戦えた選手、しかも守備でも貢献が計算できる選手を先発に抜擢し、初戦で堅くなってしまったり、グループリーグを通じて安定感を発揮できなかったものの、でも「いざというとき個で勝負を決められる」ってタレントを切り札としてベンチに置いていた。少しでもチームに精神的な余裕を持たせようという用兵だったように思います。
当然、ヒリヒリ感マックスなのは相手も同じ。ゆえにイラクも慎重でした。リスクを冒さない。攻めに人数をかけるみたいな無謀なことはしない。もとより日本U23は、それ以上にリスクマネジメントを疎かにしない。ゆえに、見る人が見れば「腰が引けたもの同士のしょっぱい戦いだなぁ」と感じたかもしれませんし、この試合を見て退屈に感じるか、ヒリヒリ感に痺れるかで、どれだけ自分の肌感覚に真剣勝負というものの怖さを同期できているかが試されているような気がしないでもない。
そんなヒリヒリ感に襲われて我々オーディエンスが前後不覚になっているなか、どっしり平常心で構えていたのが手倉森監督。勝負師というか、度胸があるというか。こういうシチュエーションでチキンハートな指揮官だと、恐怖心から逃れたくて蛮勇に走る、必要以上に攻撃的な采配に走ってしまいがちなんですけど、手倉森さんは120分になることも十分に計算に入れ、「絶対に水漏れを生まない」という前提の上で、ごくロジカルに選手交代のカードを切った。相手が足が攣りだしたところまで我慢してからの浅野投入ですからね。
90分で決まれば最高だけど120分になったとしても大丈夫なように、両様に構えながら試合を進めるってのは、準備段階で選手たちにも叩き込んでいたのではあるまいか。その証拠に、延長戦に入ってからのスプリント数、「同時に何人が走っているか」っていう部分で、明らかに日本がイランを圧倒していた(具体的な数字は知りませんが)。途中投入の豊川が決勝ゴールを決めたことや、信じて残した中島がゴラッソで追加点を続けざまに挙げたことよりも、120分を通じて足が止まった選手がいなかったところにこそ、手倉森さんの手腕が凝縮されていたと思います。