鹿島の強さの周辺をウロウロと…

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天皇杯は、見事に鹿島が優勝してACLの出場権を獲得しましたね。なんだかんだで結果を残す、強いですねぇ。そんなわけで今回は、鹿島の強さについて考えてみよう、と。

話は昨年12月29日の天皇杯に戻ります。この試合、FC東京コーナーキックのチャンスを迎えたとき、次のようなシーンがありました。

すなわち、鹿島にクリアされたボールを自陣で拾った米本選手が、そのボールを前に入れるでも、身近な選手にパスするのでもなく、さんざんこねくり回した挙げ句、GKの権田選手にバックパスをした場面があったんですね。

なぜ米本選手がそのようなプレーをしたかの回答は、直後に与えられました。今野選手と森重選手が帰陣してきたのです。つまり米本選手は、二次攻撃のチャンスは低いと判断して、コーナーキックで乱れた陣形を整序するべく、時間稼ぎをしていたんです。別の言い方をすれば、意図的に〈時間を殺す〉プレーをしたと言えるでしょう。

〈時間を殺す〉。これが本エントリーのキーワードになります。

日頃から親しくさせて頂いているブログさんが、以下のような主張をされていました。「球球球記」さんの2010年12月28日付けのエントリーから引用します。

以下、引用

一気の形勢逆転がカウンターの醍醐味だと今でも思っています。

 その感覚からすると‘敵陣で’相手ボールを奪ったってそもそもピンチじゃない状態だったわけだから「カウンター」と言って欲しくないなと。単なる「速攻」でいいじゃん!と思ってしまうのです。

 「ショートカウンター」は廃れて欲しい言葉だなと強く思っています。

引用おわり

ぶっちゃけた話、本エントリーは、上の引用した内容を、ワタクシなりに言葉を替えてみたってだけの内容でございます。

まず確認しておきたいのは、カウンターの爽快感とは何か?ってことですね。「感」って言葉がある以上、「爽快感」の正体なんて人それぞれの主観に委ねられるべき事柄なんだとは思いますが、上で引用させて頂いた言葉をお借りするならば「一気の形勢逆転」、すなわち「攻められていた側が一転して攻撃する側に移るというギャップ」にあると考えて大過ないでしょう。

そして、そのギャップが大きければ大きいほど、爽快感も増大する。すなわち、ボール保持率が49%と51%の試合より、30%と70%の試合の方が、カウンターが決まったときの爽快感は大きいだろう、と。そういう意味で、カウンターというのは、本来的に弱者の戦術なんだと思います。

以上のような前提に立ったとき、ショートカウンターというのは、一般的なカウンターと、決定的に性質を異にします。効率よく攻撃するためには、相手の陣形が乱れているときにするべきだ。そして相手の陣形が最も乱れるのは、相手が攻撃しているときである。ならば、まずは相手に敢えて攻撃させよう。

ショートカウンターには、上のような考え方が底流しているでしょう。「強者がワザと弱者を装う」戦術、それがショートカウンターということになるかと思います。

そして、そういう、「敢えて強者として振る舞わないことによって、強者の座を維持する」という方法論こそ、鹿島の強さの秘密なんだと思います。鹿島の場合はロングカウンターですが、考え方としてはショートカウンターと同じでしょう。実力的に押されているからカウンター主体のサッカーをしているのではなく、相手に攻めさせた方が合理的だから、あえて守勢に回る、ボールを持たせる。鹿島の強さは、「弱者を演じられる強者」の持つ強さだと考えます。

では、そのようなスタイルを継続させ得ている鹿島の基本的なサッカー観とは、どういったものか。それは、「相手ゴールを目掛けない時間」に対する捉え方に特徴があるのではないかと想像します。

サッカーとは点をたくさん取ったチームが勝つスポーツです。点を取れば取るほど勝利に近づくわけですので、点を取るためのアクションを沢山すればするほど、勝利に対して合理的ということになります。

そういう、原理的な合理主義を極限にまで押し進めようとしたのがフィンケ・レッズなのではないかと思います。フィンケさんは、常々「チャンスの数を増やすことが勝利のための唯一の方法である」といったコメントを繰り返していたように記憶してます。おそらく、フィンケさんは「保持率100%」を究極の理想にしていたのではないでしょうか。そのようなフィンケさんの考え方でいけば、「相手ゴールを目掛けない時間」というのは、勝利を目指すにあたって、非合理的な時間でしかない。この辺の価値観は西野ガンバにも共通しているかもしれません。

一方、鹿島というクラブは、それとは正反対の考え方をする。直接は「相手ゴールを目掛けない時間」を的確に支配してこそ勝利に近づくと考えている、たぶん。

「相手ゴールを目掛けない時間」を、勝利に対する合理的な時間と評価しているとすれば、当然、「相手ゴールを目掛けない時間」が増えることを厭わない。そのような基本的思考法を持つ鹿島ですから、〈時間を殺す〉ことが非常に上手です。分かりやすい例は、勝ってる試合のクローズの仕方ですね。

或いはゲーム序盤では攻め立てるということをせずに、相手の出方を窺うというやり方も、敢えて自ら「相手ゴールを目掛けない時間」を増やしている、すなわち〈時間を殺す〉戦術と言えるでしょう。そして、こういった「相手ゴールを目掛けない時間」の支配力こそ、鹿島の強さの源だと思うわけです。

鹿島というクラブは、「相手ゴールを目掛けない時間」を合理的な時間と考える。だから〈時間を殺す〉ことや、「強者でありながら弱者を演じる」ことに迷いがない。それが鹿島の勝負強さであり、チームとしての強さなのではないでしょうか。

何はともあれ、今後も鹿島的な価値観と、フィンケさんや西野さん的な価値観が、今後もせめぎ合いつつ、Jリーグを盛り上げてくれることでしょう。