「逆に、そこが良いよね」とか、「逆に、ラッキーやな」とか、「逆に」って、とても便利な接続詞ですよね、みたいな話。
今シーズンの序盤は、見事にけっつまずいた鹿島。要因として勿論、震災の影響もあるでしょうし、長い間、同じ監督のもと大きなメンバー変動もないままやってきたことによる勤続疲労の影響も無視できません。特に、何試合もホームで戦えなかったことは、我々素人が考える以上に影響があったのかもしれませんね。
とはいえ、そんな鹿島も中盤に差し掛かるなかで、少しずつ復調しつつあるようです。
この試合でも前半の20分くらいまでは、昨シーズンまでの良かった頃の鹿島を彷彿とさせるパス展開が見られました。鹿島のパス回しというのは、とにかく、無理なく自然に相手の急所を突くオートメーションだと思うのですが、この試合(の序盤)で特に目立ったのが、スルーの見事さですね。
スルーが成立するということは、パスの先に反応した選手が複数いるということですので、当然、パスの出し手と複数の受け手、すなわち3人以上の選手が同じイメージを共有しているということです。
そんな複雑な言い回しをしなくとも、要するに「阿吽の呼吸」が存在することなしにはスルーは成立しないっつうことですね。
しかし、それでも鹿島は敗北しました。この試合を通じて、殆どの時間が鹿島のハーフコートゲームでした。数字の上では分かりませんが、見た感じの保持率は、圧倒的に鹿島が上回っていたように思います。ただ、にもかかわらず、あまり得点の匂いは香ってきませんでした。攻めてはいるのですが、いま一つ崩しているという雰囲気がないのですね。
理由はいくつか考えられるのですが、まず最初に挙げなければならないのは、レイソル守備陣は、基本的に引いてブロックを作っていたので、常に人数が足りていたという点ですね。レイソルからすれば想定の範囲内といった感じだったのではないでしょうか、ホリエモンばりに。
アントラーズが攻めきれなかった理由として、次に挙げられるのが興梠選手の狼少年ぶりでしょう。
この試合は互いにブラジル人監督ということもあってかなかってか、両チームとも試合を通じてマリーシア全開でした。わかりやすく言えば、倒れた方が得策だと感じたときは、倒れざるをえないというわけでもないのに、躊躇なく倒れる選手が続出していたわけです。
なかでも興梠選手の飛ばしっぷりには人知を超えるものがありました。興梠選手のマークに付いた近藤選手も、きりきり舞いにさせられながら、かなりシャツを引っ張っていたので、一方的に興梠選手が黒だとも言い切れないのですが、それにしても、すぐにダイビングする、ファールをアピールする。
もはや踏ん張ろうという努力をハナから放棄しているのではないかってくらいの倒れ具合。前半も15分を過ぎる頃には、審判からも完全に「はいはい、分かった分かった、よしよし」みたいな扱いを受けていましたし、これを狼少年と言わずして、狼何と言うんだ?或いは何少年と言うんだ?ってな話です。
そんな、狼男であり、いつかの少年である興梠選手はオリベイラから大目玉を喰らったらしく前半でアウト(実際には負傷交代とのこと)。代わって大迫選手が投入されます。
前半から、なんだかんだ言って田代選手を目掛けたパワープレーが目立ちまくっていた鹿島ですが、後半に大迫選手が投入されてからは一意専心、「放り込み道」に精進し始めました。
実際に、前半から、ずっと田代選手はハイボールの競り合いに勝ち続けていましたし、一時は同点に追いついたゴールも田代選手が頭1つ分抜けた高さから振り下ろしたヘディングシュートでしたので、「放り込み道」に邁進するというのは、至極、合理的だったりします。
それにしても田代選手は凄かったですね。柏の守備陣は、近藤選手、パク選手、酒井選手と、比較的高さに不安のない面子が揃っているのですが、そういう相手に対し極端でもなんでもなく、ほぼ全ての機会で競り勝っていたような印象があります。
特にマークについたパク選手は、この試合が怪我からの復帰戦だったそうなのですが、クタクタかつアワアワかつワワワワワにさせられた復帰戦になりましたね。
そんな「放り込み道」も、45分間まるまるパワープレーオンリーだと、さすがのレイソル守備陣も、それなりに対応できてしまいますし、一本調子ですから、前半以上に、攻めている割に得点の匂いがしないって感じになります。
それより何より、「阿吽の呼吸」で骨を斬るのではなく、「放り込み道」に邁進するということ自体が、余りにも鹿島らしくない。ゆっくりダラダラ余裕綽々に試合を進めつつ、緩急を付けて一気呵成に点を取るという緩急自在がアントラーズの醍醐味だと思うのですが、一本調子に、かつ必死に攻めまくるってのでは、せっかくの鹿島のDNAがまるで生きてこない。
挙げ句の果てには、圧倒的に攻めながら、一瞬の隙から相手のスーパーゴール2つで2失点を喫し敗北してしまったわけで、これって、むしろ鹿島がこれまで相手チームに味わわせてきた空虚感ですよね。その空虚感を、いまは鹿島の方が噛み締めさせられている。
鹿島は現在、転換期にあるのかもしれません。
というわけで、おそらく、そのうち巻き返してくるでしょうから、期間限定でしか見ることのできないアントラーズの姿を拝見することができました。これはこれで貴重な経験になるのかもしれません。「逆に、ラッキー」ではなかろうか、と。何事もポジティブに解釈すれば良いのです。ちなみに「逆に」と同じような便利な接続詞として、「良い意味で」というのがあります。