町田、調子良いですね。一方の長崎は足踏み状態。そんな一戦を見るべく野津田へ。
■前半
言うなれば「地域密着の集合体」を理念とするJリーグですから、こういうときこそ、一丸となるシチュエーション。「平成28年熊本地震」という名前になったんですよね。ある意味、「さしあたり地震活動そのものは落ち着いてきた(ように見える)」ということだと思います。そして、我々Jリーグファミリーが地域復興を応援しようというオフィシャルのキャッチフレーズは「がんばろう九州」というところになった模様。
そんな「みんなで手を取り合おう」という戦前のムードであっても、試合そのものは別問題。選手は相手を倒すべく全力で戦います。それがスポーツマンシップというもの。のっけから熱かったですね。全ては町田CBの畠中が永井龍を後ろから思いっきりプッシュしたことから始まります。がぜん両チームともヒートアップ。落ち着きをとり戻す前に、今度は長崎FWの佐藤が町田GK高原のパントキックを妨害したりと、丁々発止が繰り返されます。
戦術的な部分に注目すると、まず長崎は左WBのパクヒョンジンを生かしていこうというサッカーに見えました。あまりハイプレスという感じでもなかったので、ボールを奪うのはハーフライン過ぎたあたりが多かったのですが、そこから右CBの村上や右ボランチの田中が一気にパクヒョンジンへとサイドチェンジのロングパスを届けて、一気にゴールを襲うという攻撃が多かった。そして、その形から実際に相手のゴールネットを2回も揺らせた。如何せん、オフサイドとファールでどちらも幻のゴールに終わったのですが。
対する町田は、数年前の相馬さんなら考えられないくらいに「縦に速く!」というスタイル。その中心にいたのが鈴木崇文です。この選手、何度か野津田でみているのですが、たまたまワタクシが観戦した試合では、それほどのインパクトはなかった。それが、この試合では攻撃の起点であり、同時にそれがラストパスという縦パスをガンガン届けていました。逆回転スピンでもかけているのか、届かなさそうなところにパスを出しているにもかかわらず、なぜか味方にちゃんと届くんですよね、彼のパスって。
■後半
後半に入ると、長崎が攻勢を若干ながら強めます。その中心にいたのは梶川。どうやら、高木さんは梶川の機動力や足元の技術を最大限に生かすサッカーへと、チーム作りの梶を切ったようです。“梶”川だけに。それはすなわち、セーフティーファーストのリアクションサッカーから、地上戦を軸足を置いたパスサッカーへの転換とも言えます。なるほど、今シーズンの長崎は、今ひとつ調子に乗り切れてない印象がありましたが、それは、本質的な部分の再構築を図っているからかもしれません。
対する町田は、逆に、去年までの長崎が指向していたような、現実的に勝ち点を積み上げていくスタイル。先に述べたように、鈴木崇文という飛び道具があるからこそでしょうが、まずは2トップへの縦パスを入れていきます。その場合のミソは、いわゆる縦抜けだけでなく、2トップの2人ともに高さがありますから、縦ポン的なハイボールもそれなりに有効なところ。チョンテセとかがいたころの川崎のサッカーのイメージに近いように思います。
ただ、それだけだと、相手に対応されてしまう。それでやられるほど高木さんが作るチームの守備はヤワでない。山椒のようなピリリと辛いアクセントが求められる。で、そのアクセントの役割を果たしていたのが、ご存知、谷澤達也。ヤザーです。この選手は、どこにいっても“谷澤はヤザー”ですね。安定の決まらないシュート、安定のボールキープ、そして、安定の「時々発動するスーパープレー」です。谷澤のスルーパスから中島が先制ゴールを決めました。
そして、町田の素晴らしさは、ここからタイムアップまでの15分間。なんというか、何事もないように試合をクローズさせるのですよ。相手に攻め込まれて這々の体になるわけでもなく、追加点を奪うべく前のめりになるわけでもない。時間稼ぎも、わりとスタイリッシュにやる。追いつきたくて焦りの募った長崎が、ラフプレーで退場者を出したのとは対照的に、涼しげに試合を終わらせました。これが噂のウイニングメンタリティってヤツかもしれません。
■日本代表への推薦状
□推薦者
・永井龍
□推薦理由
いやぁ、序盤からバチバチやってましたよ。畠中にプッシュされてから、ずっと。もう、常にヨンアピンとか畠中とかとやり合い続ける。ちなみにハーフタイム明けに長崎のコーチ陣から何やら話しかけられた畠中、見えないように「はあ!? あいつ、何言ってんの??」とばかりに、こっそり、手で“クルクルすっとんナニガシ”をやってました。畠中、スタンドからは丸見えだぞ。もう子どもではないのだから(年齢的には大学生の年齢だけど)、「世間様」というものを意識しなさい。
ともあれ、そんななか、この杉本は向こうっ気が強かったですね。相手がヨンアピンであろうと、メンタル的には一歩も引かない。「殴られたら殴り返しますけど、何か?」って雰囲気、素敵です。そして、フィジカル的にも一歩も引かない。180cmくらいあるのに、さほど高く見えないのは、筋肉質なプロレスラー体系だからでしょう。逞しかった。ちょっとしたきっかけでブレイクスルーしたら、普通に代表に選ばれるだけのポテンシャルはあると思います。