ザックジャパンがコートジボワール相手に初戦を落とした瞬間、多くの「(自称)サッカーに関心のある」日本人にとって、ブラジルワールドカップの記憶は風化を始めたわけですが、一応、ワタクシはWCの全試合を録画を中心に見ました。で、その各試合のレポは少しずつ「ワールドカップTV観戦記」としてアップしておりますが、それと並行して、「ワールドカップ各国分析」もアップしていこうかなと思います。1週間に1カ国とすると、コンプリートするのに8ヶ月、2015年の5月、完全に皆さま「とっくにそんなこと忘れたよ!」って時期になってますけれども・・・。
というわけで、今回はスターシステムの可能性と限界を示してくれたアルゼンチン
□オランダ戦を見て
いやあ、オランダとの準決勝って、もの凄く渋〜い試合だったんですよ。この大会では実は両チームとも、しっかり守るチームだった。ザックジャパンと違って、“自らイニシアティブを握って”という部分に拘泥しないサッカー。一言でいえば“リアクションサッカー”だったわけですが、面白かったのは、等しく“リアクション”と言っても、微妙に概念が相違していたこと。オランダはヨーロッパのチームらしく、システムとして“リアクション”が確立していた。それに対し、アルゼンチンの場合、試合運びのワビサビの部分でリアクションを実行していたように思われました。
□マスケラーノについて
さて、この大会において最も株を上げたアルゼンチンの選手はマスケラーノだったのではないでしょうか。しばしば「影のMVP」みたいに評されてましたけど、あんなに目立つ影のMVPは、もはや“影”ではないだろうと。彼については世界中から賞賛されたかともいますが、なかでも日本人に対して強烈な印象を残したのではないでしょうか。というのも、あの、いつもクールで時々激しい職人風の風貌が『七人の侍』を彷彿とさせる。日本人の伝統的な琴線に触れてならないのです。
そんなマスチェラーノ、プレーの面を観察するならば、要するに、“アンカーであり、攻撃においては2CBに挟まれた場所でビルドアップするボランチ”だったと思います。こういう選手を中盤の底に置くのは近年のトレンドであり、ブラジル大会出場国にも多く見られました。その中でもマスケラーノは、ドイツのシュバインシュタイガーと双璧をなすクオリティを発揮していたのではないでしょうか。あるいはバルセロナでCBを務めたことがプラスに作用したのかもしれませんね。
□メッシステム
ともあれ、マスケラーノが「目立ちすぎる影の主役」だったのに対し、「表の主役」だったのがメッシですね。これまたオランダ戦を例にとると、オランダはメッシにマンマークとしてデヨングをつけてきた。でも、メッシは我関せずで、デヨングがボールを持っても、全くマークにいかない。よそ見しながらチンタラチンタラ徒歩ってる。きっと、朝の駅で乗り換える東京のサラリーマンの方が、まだ速く歩いていたのではなかろうか。
まあ、メッシのことですから、歩きながら深慮遠謀を企てているんでしょうけど、こういうのが許されるのは、ひょっとしたら21世紀を通じてメッシだけになるかもしれない。そういう意味では、我々は歴史の証人とも言えそうです。“地蔵”という部分では似たタイプであったリケルメには許されなかった特権ですからね。ワタクシの乏しい見聞の範囲では、晩年のバルデラマが、こんな感じだったような。いずれにせよ「大統領選に出馬すれば勝てる」ってレベルの選手だけに許される特別待遇でした。
それにしても、このシステムを、よく機能させましたね、サベージャ監督。スターシステムって、実は、とっても難しいと思うのです。特にメッシステムは。だって、メッシ本人のインテンシティは著しく低いわけですよ。それでも、まだ、インザーギみたいに89分消えている覚悟があるスタイルなら良い。しかし、メッシは消えたくない選手なのですよ。守備をしないくせにボールには触りたがる。常に試合に関わりながら、守備だけしないって、よく、そんな選手ありきのシステムを作れたな、と。アルゼンチンのリアルMVPはサベージャ監督だと確信します。