■スペイン 1 vs 5 オランダ[WCグループB 06月14日]
結果を知ってから見たので、「どんなものかな?」と思っていたのですが、少なくとも序盤はスペイン自慢のパスサッカーがそれなり機能する場面も皆無ではなかったですよね。シャビやらイニエスタやらを起点としたワンタッチのショートパス交換、見られました。実際に先制点を挙げましたしね。シャビのスルーパスにジエゴコスタが反応してPKを獲得。それをシャビアロンソが決めました。ここまでは“前回王者の貫禄”が示されていました。
先制してからも、直後はスペインも「これで受けに回らないぞ」という気概を持って、さらに畳み掛けようとしていましたが、それをオランダが力ずくで押し返しにかかりました。自然と保持率を上げる。ここはオランダの底力と言うしかない。それでも、“たられば”をナンセンスとしない前提で述べますけど、前半42分の決定機でシウバがシュートを決めていたら、きっとスペインがこの試合を勝って、そのまま決勝トーナメントも勝ち進んだんだろうななんて思います。
で、シウバが外して1分も経たないうちに、ブリントのアーリークロスにファンペルシーが飛び出して、ダイレクトでヘディングシュート。オランダが同点に追いついたのですよ。ここで試合の潮目が変わったのですよ。これが勝負事。後半に入っても、まだ同点だというのに、スペインは少しギクシャク。一つ一つ、1人1人のプレーそのものはともかく、全体としてリズムが良くない。気持ちよくサッカーが出来ていない。スペインのスタイル的に、これは致命的。
そうなると、虎視眈々とスペイン守備陣の綻びを狙い澄ましていたロッベンが輝く。相手スローインをボランチが奪って、スナイデルが左へ展開すると、それをワンタッチでブリントがアーリクロス。そこからはロッベンのワンマンショー。ファインゴールでカシージャスを攻略します。ただ、まだ1点のビハインドだったんですよね。なのに、デルボスケ、少し慌てましたかね。シャビアロンソを外してペドロを投入。予め準備されたプランBだったとは思われますが、スクランブル感が否めない。
そうやっているうちに、オランダが決定的な3点目。スナイデルの遠目からのフリーキックにカシージャスとファンペルシーが交錯し、無人のゴールにデフライが押し込みます。キーパーチャージかどうか。ただ、後半の30分手前にはファンペルシーに4点目を奪われたのですが、そのときはカシージャスがトラップミスしてファンペルシーにかっさらわれたもので、こちらは完全にカシージャスのミス。カシージャスにとっては受難の展開。
そしてカシージャスの受難は、これだけにとどまらない。ダメ押しの5点目はスペイン守備陣全体がロッベンにペンペンにされた失点だったのですが、そのときのカシージャスに翻弄され加減が、見ていて本当に残酷で印象的でした。前回王者があまりにもの大敗。非常にショッキングでセンセーショナルに伝えられましたが、必然的大敗というよりも、スペインからすれば〈“勝負のアヤ”が最悪のタイミングで最悪な出方をした〉そういった負け方だったと思います。
というわけでオランダにとっては狙い通りのサッカーで勝利を収めました。その特徴は“異様に高い最終ライン”ということに尽きようかと思います。とにかく中盤でスペインの選手に自由を与えない、そこを徹底してきた。で、このやり方だと、先制されてもへっちゃらなのですね。引いて守るやり方だと、バランスを崩して前に出ることになりますが、人数をかけてハイラインで守るやり方だと、高いラインをそのまま維持して、保持率を少し上げれば攻撃モードの新たなバランスを作り出せる。合理的です。
ただ、ハイラインには当然ながらリスクがある。それはオフサイドがかかり切らなかったとき、相手アタッカーに広大なスペースを与えることになるという危険性なのですが、この日のスペインにその心配は無用でした。ひょっとしてファンハールは「きっとトーレスではなくジエゴコスタが出てくるだろう。そしてジエゴコスタはトップフォームに戻っていないだろうから、裏抜けは恐くない」ってところまで見切っていたんでしょうかね。だとしたら恐るべしです。逆に言えば、トーレス先発だったら、別の展開も十分に考えられました。