監督交代の周辺をウロウロと…/4【横浜FC編】

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思いの他、長編になってしまいましたが、もう少し続きます。

監督交代に際するマネジメントという意味で「上」と評価しうるのは、どこか。繰り返しになりますが、「監督を交代せざるをえなくなったこと」は評価の対象外にして、あくまで「交代せざるをえなくなった」という状況を前提とした、フロントの対応についてですが、「上」に相当するのは横浜FC、川崎と考えます。

共通点としては、シーズンの早い段階で手を打ったということなのですが、場合によっては、「だったら最初から他の監督にしとけよ!」って批判もあるかもしれませんので、その辺りのことは最後の方で述べます。

さて、横浜FCにとって、シーズン開始直後に監督を交代するということは、何も初めての体験ではありません。童子じみた男が貞淑を守っているわけではないのですね。改めて述べるまでもなく、数年前に横浜FCは足立監督をシーズン開幕早々に更迭し、それを引き継いだ高木琢哉とともにJ1へ上り詰めるという成功経験を持っています。

なので、こういった形での監督交代は横浜FCにとって、いわば「お手の物」。クラブのレジェンドである山口素弘というチョイスを見る限り、シーズン開幕前から、あるいは、このようなシチュエーションを想定し、相応の準備もしてあったのではないか、昨シーズン終了の時点で山口さんの事前内諾くらいは確保していたんじゃないかと邪推します。

少なくとも、今シーズンが始動するにあたって、「監督業に専念するため」という体裁でGM兼任を解いたのは、いま考えると、フロントの岸野さんに対する信頼感が薄まっていたことの何よりの証拠ではないかと。

それにしても横浜FCにおける岸野さんは良いところがなかったですね。鳥栖時代の実績を鑑みれば、ここまでダメな監督さんではないと思うのですが。これまた邪推すると、どうもメインスポンサーが安定して以降の横浜FCって、能力を発揮しきれない指揮官が多いような。メッタなことは言えませんが、あるいはスポンサーさんとの相性みたいなものがモロに反映してしまう組織なのかなぁとか勘ぐってしまったり。

ともあれ、横浜FCはシーズン開始直後に大鉈を振るいました。それは、後で述べる川崎にも共通するのですが、当然その部分に対しては「そんなまどろっこしいことをせずに、昨シーズン終了と同時にクビを切っておけよ!」って声も上がろうかと思います。

それはそれで正論なのですが、そこは、「我々が住んでいるのは日本である」って要素が絡んでくるわけで。いつだったかニュースを見ていたら、「若者の安定指向が強まっている」なんてことが報じられていました。

かつて「ITバブル」華やかなりし頃には、外資外資のやり方を参考にしたベンチャー企業、要するにヒルズ族を社長に持つ企業なんかでは、「ヘッドハンティングは当たり前。終身雇用なんて寝ぼけたことを言ってないで、ステップアップのためには、どんどん転職を重ねるべきだ」みたいな価値観が前面に押し出され、それに影響された、当時就職活動真っ只中だった若者層も、こぞって、そこに描かれている「バラ色の未来」に思いを馳せたものです。

ところが、リーマンショックなどを直接の契機とする、アメリカ型資本主義(を追従する主義)の失権により、夢から目が覚め、「そんなもん一部の勝ち組だけが幸せになる仕組みじゃないか」ということに社会が気づき、さらには、いわゆる「派遣切り」によって、継続的な正規雇用が如何に有り難いことかが痛感されるようになりました。

もろもろローン、つまり銀行がお金を貸す方法論をはじめとして、「日本型平凡な幸せ」を担保するあらゆるシステムは、全て、「終身雇用」を前提に成立していることが明白になり、そのような状況のもとで安定指向、すなわち、終身雇用指向が復権しつつあるわけですが、「終身雇用」の本質とは、つまり「38年間の複数年契約」なわけですね。

その期間中は、「著しく会社に不利益を与えない限り、契約解除はしない」ということになって、しかも「著しい不利益」に業績や成果が含まれることは、ほとんどない。簡単に言うと「会社に楯突かなければクビにはならない」って制度なわけです。

ここに、日本型契約の特殊性がある。おそらく欧米で契約といえば「成果」に対する「報酬」の約款だと思われますが、日本では、「勤続」に対する「雇用保障」が「契約」なんですね。だから、仮に3年契約なら3年間、途中解約せずに満了することが相対的に強く求められる。要するに、「期間内における契約解除」に対する社会的風当たりが異様に強いのが日本という国なわけです。

そして、安定指向=終身雇用指向が再び支持を回復しているように、そのような「契約満了願望」は、近年に至ってますます強まってきている。Jクラブがいくら特殊な経営体とはいえ、当然、世間の一般的風潮から自由でいられるわけもない。いわゆる社会的クレジットに大きく関わってきますからね。

そういうような、自己を取り巻く環境を鑑みたとき、「一応、契約を満了するためのチャンスは最後まで与えた」というアリバイを作りつつ、けれども、「ラストチャンスを生かせなさそうならば、早い段階で対応をとるし、そのための準備は予めしておく」というのは、非常に合理的なマネジメントだと思いますし、ゆえに横浜FCの対応は「上」なのです。