大宮と福岡。監督が変わったチームと長期政権のチーム。大宮は元鹿島の指揮官である石井さんを招聘しました。一部の鹿島サポは、監督への期待値にインフレが止まらず、大岩さんでさえ「変えろ!」なんてことを言ってるようで、石井さんへの評価も微妙っぽいですが、監督としての勝率という客観的な数字だけみれば、石井さんは名将の部類に入るはず。でも、それはあくまで身内に囲まれた鹿島での数字。大宮での成績こそ、石井さんの試金石となります。
対する福岡は、近年のトレンドに逆らわず、「健闘したけど、J1ではさすがに戦力差を埋めきれず!」となったからといって、監督の首を交換して降格の責任の御茶を濁すというようなことはせずに、井原さんの長期政権となっております。J1で苦闘したシーズンを除けば、常に昇格圏内でフィニッシュしているわけですから、もはや‘信頼と実績’の井原印。その間、目指すサッカーもブレていないですから、今年も堅実なチームを作ってくるものと思われます。
■前半
2018シーズンが開幕して、早くも1ヶ月。とっぷりと春が深まってきました。Jリーグ開幕とともに、ワタクシ的には花粉のシーズンも開幕したわけですが、花粉の季節は桜の季節でもあります。春本番のうららかさに誘われて、世間では絶好の行楽シーズン。サクラ、サクラ、いま舞い上がる。人びとの気持ちも舞い上がる。花より団子を目指して老若男女が桜の名所へと足を運びます。埼玉にも桜の名所たくさんあるのでしょうが、そのひとつが大宮公園だったりします。
この試合のキックオフは16時。大宮公園の中にあるNACK5スタジアムに向かう人の列は、13時くらいからの2時間ちょっとがピークとなりますが、それは同時に花見から帰る人びとのピークにも相当したりする。大宮公園に行く人と帰る人が川中島の戦いのように交差する氷川神社の参道。普段は大宮駅から20分とか25分とかなんですけど、この日はプラス10分くらい余計にかかった印象。参道入口の手焼き岩せんべい屋とか名物の氷川団子屋もお賑わいでございました。
試合は、例によって、この選手が色々と目立ちまくってました。そう、岩下敬輔。自陣がピンチになったときの岩下は、それこそ、ありとあらゆる方法論を駆使する。とりあえず、少しでも相手ともつれると、逆ギレ丸出しでワザとらしく、それでいて太々しく倒れる岩下。大宮の選手や、何よりも大宮サポーターは俄然ヒートアップ。でも、岩下は悪びれません。この選手は若い頃から一貫して小競り合い作成工場ですから、むしろ、自分の土俵に引き込んだとさえ言える。
ただ、必ずしも岩下大作戦は奏功したとは言い切れない。互いがヒートアップしないように、レフリーのジャッジもシビアになる。特に、シモビッチへの対応でファールを取られるようになった。大人しくしていれば、Jリーグの場合、「大きなFWと小さなDFの競り合い」ってシーンで圧倒的に後者が有利なレフェリングになるのですが、岩下大作戦以降、その有利さがなくなりました。そして、前半のうちにシモビッチがヘディングで先制点。サポーターも選手も岩下大作戦へのフラストレーションに対して、溜飲を下げたことでしょう。
■後半
大宮が先制したとはいえ、では、大宮が試合を支配していたかと問われれば、決してそんなことはない。むしろ、前後半を通じて、イニシアチブは福岡が握っていたように思います。まだまだ石井アルディージャに、そのような力はない。なんせ、石井さんが身につけてきた鹿島のサッカーというのは、別の場所で実践するのがとても難しい類のもの。鹿島のサッカーって、マニュアル化しづらいですよね。いわば師資相承の口伝によって維持されてきたようなものですから。
鹿島のサッカーを実践するには、「阿吽の呼吸」ってヤツがどうしても必要になってくるのですが、この(「阿吽の呼吸」なるものは、なかなか厄介で、言語化して選手に吸収させられるものではない。長い時間をかけて、ブレることなく王道を歩み続けるなかで、結果として後から身についていくようなもの。風間さんやミシャのサッカーとの最大の違いはそこ。風間さんやミシャのサッカーが‘技能’だとすれば、鹿島のサッカーは‘文化’。そうそう簡単に再生産できるようなものではありません。
そんな、まだまだ発展途上の大宮に対して、福岡は攻撃的なWボランチで臨みました。鈴木惇と城後寿。背番号は8番と10番。一見すると、徹底的に中盤を支配して、自らたちが主語になるようなサッカーを志向しているのかと勘違いしてしまいそうだ。でも井原アビスパはそんなことは絶対にやりません。堅守縦ポンサッカーにいついかなる時も徹することができることこそ、このチームの強み。攻撃に特徴のある2人を並べたとしても、それを埋没させる覚悟があります。
そんな攻撃的Wボランチが輝きだしたのは、大前のフリーキックによってリードを2点に広げられた後。ここからの時間帯は最終ラインの篠原あたりが攻め上がり、そこを鈴木惇がフォローしつつビルドアップに厚みを持たせ、城後が積極的にペナルティエリアに侵入していく感じで、アビスパが猛攻モードになります。そして、耐えかねた大宮守備陣の河面がフライングレシーブしてしまうほどに追い詰めます。しかし、追撃はこのPKの1点のみ。大宮が這々の体で逃げ切りました。