松田直樹を追悼する直情型闘将の必要性

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松田直樹を追悼する直情型闘将の必要性

本シリーズは、2011年10月に書き散らしたものです。そういうものとしてお読みくださいませ。

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ワタクシ、実物は見たことないのですが、2002年日韓WCの公式映像がありますよね。松田直樹が他界された当時、チョコチョコと、その映像が使われていました。使われる箇所は決まって同じ。練習中だか練習後だかに宮本と松田がゴールポスト前で胡座をかきながら、なにやらヒソヒソ密談している風景です。

要するにトルシエの指示を忠実に守るべきか、自分たちなりにアレンジを加えるべきかを相談していたらしいのですが、そこで展開していたのは、秩序を乱し兼ねない行為に対し二の足を踏む宮本と、勝ちゃいいんだよ的に強気な松田直樹という構図でした。この風景を一瞥して、いかにも松田直樹らしいな、いかにも宮本らしいなと、どこか微笑ましい気持ちになりました。

宮本は、代表でもクラブでも所属するチームでは常にキャプテンを任される選手、自他共に認める学級委員キャラですね。対する松田は、このシリーズで散々述べてきたようにガキ大将キャラ。この2人の個性がホント分かりやすい形で提示されたエピソードだと思うのですよ。そして、そんな2人が反目することも、ギスギスすることもなく、ちゃんと意見をぶつけ合っているわけですから、そりゃ最低限の結果はキッチリ残しますよね。

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ワタクシ、例えば「AKBの中で好みのタイプは?」みたいな話になると、基本的に、自らの学生時代を思い出して、「会話が弾みやすそうなのは誰だろう?」という順番でランキングを付けます。こういう話題に限らず、「学生時代のパターンでいけば…」という発想でモノを考えるわけですが、個人的な経験則でいくと、楽しかったクラスってのは、必ず学級委員タイプと、体育祭とかイベント事で全体を取り仕切るタイプの、2種類のリーダーがいて、しかも、その両者が良好の関係にあったクラスだと思うんですね。

で、いわゆる「優等生」、オトナからの評判の良い学級委員タイプというのは、いつの時代でも相応に一定の割合で出現するんだと思います。

日本のサッカー界を見ても、アトランタ五輪における服部、フランスWCでの井原、近年では中澤や長谷部など、宮本の他に、いくらでも名前が思い浮かびます。前回のエントリーで、子どもを一人前に成長させる過程において、地域社会の役割が低下するにつれ、ガキ大将が生まれづらい社会になってきているのではないか、なんてことを述べましたが、逆に言えば、学校教育の比重が高まっているわけであり、学級委員タイプ、オトナ受けの良い優等生タイプは安定的に再生産されやすくなっているように思います。

ただ、だからといって、学級委員タイプだけいれば良いかというと、そうではない。どうしても「勝負強さ」とか「火事場のなんとか力」とか、集団の持つ爆発力が不足するように思います。逆にガキ大将タイプばかりだと、1つ間違えば空中分解しかねない。闘莉王というガキ大将がいなければ、レッズもグランパスもJリーグを制覇できなかったでしょう。しかし同時に鈴木啓太や楢崎という学級委員がいなければ、闘莉王が孤立して、チームは崩壊していたかもしれない。ガキ大将と学級委員の両方がいるからこそ、チームは強くなるのです。

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そのように考えるならば、なぜ浦和レッズフィンケ監督が失敗かについても容易に説明がつきます。フィンケさんは就任以来、GKに都築ではなく山岸を重用しました。また良くも悪くも圧倒的な存在感を放ち、一選手を超える影響力を持った闘莉王をチームから放出しました。選手に対して、公務員のように、お上(監督)の指示に素直に従うことを求め、ややもすれば感情が先走り、そういう理性が後景に下がってしまうような直情型の選手を切り捨てたわけです。

その結果、チームからアナーキーは無くなりましたが、一方で副作用として、理性を超えたアドレナリンも失うことになりました。監督の意志を超えたパワーが負に作用することもなくなった代わりに、正の方向に発動することもなくなってしまったわけです。

やはり、良いチームには、計算の立ちやすい理性的な力に加えて、劇薬的のエネルギーも必要だと思うのですね。岡田ジャパンは長谷部、中澤、楢崎といった「良心」がチームを屋台骨を支えると同時に、本田や闘莉王といった「劇薬」が上手く組み込まれていたこそ大躍進したんだと考えます。そして、そのような「劇薬」的な効果を生み出す存在こそ、ガキ大将だと思うのです。

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そんなわけで、チームが強くなるためには、優等生タイプの学級委員型リーダーと、松田直樹のようなガキ大将型リーダーの両方が必要だという話をしてきました。ただ、時代としてはガキ大将型リーダーが生まれづらくなっている。そういう側面からも、松田直樹という存在を失ったことによる日本サッカー界の損失は非常に大きいと言わねばなりません。ちなみに、今後の日本サッカー界をリードしていくガキ大将として、個人的には槇野に期待するところが大です。彼は学級委員にもガキ大将にもなれるパーソナリティを持つ希有な選手だと思いますが、ぜひヤンチャな部分をなくさないでいて欲しいと願います。

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というわけで、松田直樹を素材に、あれこれ日本サッカーを取り巻くイロイロを考えてきました。これが松田直樹への供養になるとは思いませんけど、日本サッカー界が少しでも進歩すれば、松田も空の上からニッコリしてくれるんじゃないでしょうか。