サッカー戦術の周辺をウロウロと…2013年シーズンのJリーグを振り返る・サッカー界を彩る諸要素

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■442と4231[ジェフvs北九州(3月31日)]

この試合は、昇格有力候補のジェフと、チームを0から再構築せざるをえなくなったギラヴァンツの一戦。しかも、最終的なスコアが6ー1と、ジェフが大勝しました。しかし、では、ハーフコートゲームのように、圧倒的にジェフが攻めまくって、北九州がサンドバッグ状態になっていたかと言えば、決してそうではなく。むしろ〈攻める北九州と守るジェフ〉という構図で試合は進みました。

もちろんジェフが早い時間に先制するという試合展開とか、鈴木さんと柱谷兄という両監督の個性の差によりもたらされたという要素も強いのでしょうけど、ワタクシ的に感じたのは、北九州が採った442と千葉が採用する4231という両チームのフォーメーションというか戦術というかの相違が、こういう展開を必然化させたようにも思われました。

かつて小倉隆史さんに「442の良さは何か」と問われたとき、ベンゲルは「バランスの良さ」と答えたそうです。442というのは、スペースの配分という意味では、最も自然な配置といえ、様々な戦術を‘さしあたり’円滑に進めることに向いている。一方の4231は、たまたま時期的に合致しているだけなのかもしれませんが、ショートカウンターの隆盛と歩調を合わせるように繁栄を築いてきた配置ですね。つまり、ボゼッションにこだわらず、効率的に勝ち点を積み上げるのに適した戦術と言えそうです。

そう考えると、一見ボゼッションしている北九州が得点できず、あまりボールを持っていない千葉が6得点も奪うというのは、「これぞ442vs4231」という展開だったのかもしれません。

■3322[千葉vs水戸(8月4日)]

3バックの前にアンカーを1枚置いてセントラルの位置にトップとシャドーを2枚ずつ配する3322システムって、いつからあるんですかね?

まあ、サッカーの歴史は人類の歴史くらい古いでしょうから、人類が文字を獲得する以前から存在していた可能性を排除することはできませんが、少なくともJリーグで継続的に採用するようになったのは、J1に昇格したシーズンの田坂トリニータが、1つの画期になるのではないかと認識しています。

いやですね、このシステムって、うまく運用できたら、かなり合理的なんじゃないかと思うわけですよ。もちろん、バランスを考えると、どう見てもアンバランスなんでリスキーであることは明白なんですが、攻守それぞれにハッキリとしたメリットがある。

まず守備においては、ワンボランチ+3バックで守れるわけがないので、事実上、5バックになる。これ自体は想定の範囲内でしょうから、さほど問題にならない。むしろ、低い位置に5人並ぶことによって、ビルドアップの段階で横幅を十分に活用できる。当然、そのためにアンカーには宮沢のように優れた展開力が求められるわけですが。

一方、高い位置にボールが届くと、バイタルエリアの中央近辺に2トップと2シャドーという4枚が近い距離感でスタンバっている。当然、パスは繋がりやすいですし、何よりも、ミドルシュートを撃てるレンジに4人がいるというのは、相手守備陣からすれば、非常に厄介。この日の水戸の猛攻を見ると、個の能力に優れたチームが、このシステムを高度に使いこなしている姿を夢想してやみません。

天皇杯名物ターンオーバー[浦和vs山形(10月16日)]

この試合は天皇杯の三回戦。全ての組み合わせがJ1対J2という組み合わせとなる、そんなシチュエーション。シーズンも佳境を迎え、浦和はJ1優勝を、山形はJ1昇格プレーオフを目指すべく、そうそうは天皇杯に全力投球はできない状況。てなわけで、ペトロビッチ・奥野の両監督はターンオーバーで、この試合に臨みました。しかし、そのターンオーバーの仕方に両指揮官のカラーが出ていて面白かった。

まず、山形ですが、基本的にはレギュラーのベテラン選手だけを休ませるというイメージ。天皇杯ですので、その辺りの規制はかからないのですが、いわゆるベストメンバー規定に抵触しない範囲内といった感じ。しかも、リードを奪った後半には、逃げ切るべく温存した山崎雅人や堀ノ内聖を投入。まあ、日本人監督の場合、ターンオーバーといっても、これぐらいのものですよね。「世間をお騒がせしない」というのも日本では重要な素養ですので、これはこれで合理主義的と言えます。

一方のペトロビッチは往年のピッコリを彷彿とさせるような総取り替え。山田直輝・矢島・小島といった、「かつては出番を得ていたが、最近はゲームに絡めていない」という選手たちが、その恩恵に預かり、ピッチに立ちました。しかし、レギュラー陣を休ませるためには、それでは選手が足りないらしく関根貴大や邦本宜裕といったユース所属の選手までベンチに入れ、しかも、リードを許した状況にもかかわらず、実際にピッチに送り込んだ。結果的に「邦本がゴールを奪うも敗退」というなんとも複雑なことになったのですが、とにもかくにも「レギュラー陣に休みを与えることが最優先」という方針を貫き通した。このあたりは世間体を気にする日本人には採りづらい、欧米人ならではの合理主義だな、と興味深かったです。