アジアカップ優勝の周辺をウロウロと…ザックの用兵

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アジアカップを振り返り続けます。第三弾です。

前回、アジアカップでザックはメンバーを固定していたと述べました。しかし、一方でザックが、とにもかくにも柏木選手や伊野波選手や藤本選手などを、迷いなく起用したという点も見落としてはならないと思います。

特に決勝戦における藤本選手の起用には注目すべきではないでしょうか。

香川選手が骨折したことを受け、代役が誰になるか、人それぞれ、いろんな意見が見受けられました。比較的多くの人々からの期待を集めたは、サウジアラビア戦でトップ下として本田選手の穴を見事に埋めた柏木選手でした。

しかし、ザックは岡崎選手を左WGに回して、藤本選手を右WGに入れました。結果的に藤本選手がザックの期待に応えるだけの働きを十分に果たしたかといえば、懐疑的な意見もあるでしょう。

それでも、この選手起用は、長いスパンで考えたとき、非常に意味を持ってくるんじゃないかと思うのです。何故ならば、敢えて藤本選手を起用したことにより、「序列は作るが、それが起用選手の固定を意味するわけではない」というザックの方針が、選手やクラブを含めた世間に伝わったからです。

この選手起用を見たときにワタクシが思い出したのが、レイソル時代の西野監督です。そしてレイソル時代の萩村選手です。西野さんはガンバの監督になった現在でも、例えば橋本選手や遠藤選手、去年までならルーカス選手を複数のポジションで使いながら、チームの完成度を維持するという手段を用います。レイソル時代には、そういう傾向が今より更に顕著で、12番目の選手的存在だった萩原選手をボランチやDFとしてフル回転させることで、事実上1213人でシーズンを戦っているかのごとき印象を受けました。

序列を明確化するという意味ではザックも西野さんも同じなんですが、両者には決定的な質的相違があるように思います。

すなわち、西野さんは選手毎の序列を作るんだと感じます。欠場者と同じポジションのナンバー2の選手が全体の序列では15番目だとしたとき、パズルを組み替えることにより全体の序列が12番目にある選手を使おうとするのが西野さん。一方、全体の序列にこだわらず、そのポジションのナンバー2の選手を、そのまま使うのがザック。思うにザックはポジション毎に序列を作っていたのではないでしょうか。

おそらくザックは柏木選手を真ん中の選手として呼んだ。そしてWGの次点は藤本選手だった。ならば仮に全体の序列としては柏木選手の方が高いとしても、WGの序列では藤本選手の順番なのだから、そのまま藤本選手を使った、そういうことだと思うんですね。

もちろん西野さんがダメでザックが優れているというような二元論をしているわけではありません。なぜならば西野さんはクラブの監督であって、ザックは代表の監督だからです。立っている土俵が根本的に異なります。そのことを確認した上で申しますと、代表の監督としては、西野さんよりザックの方法論の方が適切なのではないかと思うのです。

何故か。つまりですね、選手毎ではなくポジション毎に序列を作る方が、結果として、多くの選手に出番を与えることができるんですね。ザックはアジアカップで、しっかりとした序列を示すことでチームの骨組みを明確化したとともに、実に多くの選手を起用しています。

序列の固定化と多選手の起用という一見すれば矛盾しているように感じるアンビバレントを、ものの見事に両立させたわけです。

やはり多くの選手を使うってことは、長いスパンで見たとき、必要不可欠だと思うんですね。そうすることで控えの選手のモチベーションは確実に維持されます。何よりも、クラブとの関係作りが良好に進むのではないかと考えます。

仮に、ザックが1314人くらいでアジアカップを戦ったとしましょう。そうすれば必然的に10人近い選手は出番がなかったということになる。あるいは、消化試合に1軍を休ませるためる用の2軍としてだけ出場したということになる。

そうした場合、特に今回みたいにキャンプシーズン真っ盛りですと、チーム作りを何よりも優先すべきクラブとしては、「使う気がないなら、あるいは戦力として期待していないなら、うちの貴重な主力選手を大切な時期に呼んでくれるな」ってことになるでしょう。

そういうことが重なれば、おそらくクラブは、代表に対して非協力的になるに違いありません。こういったクラブとの関係作りも代表監督な重要な仕事の1つであって、そこがクラブの監督とは決定的に異なる点でしょう。

更に、ポジション毎に序列を作るという、アジアカップにおけるザックのやり方だと、選手にとっても、自分がどういう役割を期待されているのかがクリアになるんだと思います。先の例で言えば、敢えて起用されなかったことにより、逆に柏木選手は、「自分は中盤を組み立てる選手として召集されたんだな」ということを、明確に意識できたんじゃないかと想像します。

ザックの起用を見ていると、選手それぞれに明確なプレーの優先順位を与えるという点で一貫していたように感じます。岩政選手はハイボールを跳ね返す役割、本田拓選手は試合をクローズさせる役割。だから、途中出場した選手はプレーに迷いがない。

細貝選手や李選手など、アジアカップでは途中出場した選手が試合を決めるということも少なくありませんでしたが、その秘訣は以上のようなところにあったのではないでしょうか。