マリノスにとって「強い」と「つまらなくない」は両立するのか?横浜FMvs神戸の周辺をウロウロと…

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一昔前、「変わらないことは変わることより難しい」なんていう、ジャックがダニエルするCMがあったなぁなんて感慨に耽る今日この頃、皆さんにおきましては如何お過ごしでしょうか?

いやですね、岡田マリノスを見てきた世代にとって、「強いマリノス=つまらない」という定式が存在するわけですよ。で、定式を維持するには、それはそれで大変なんだろうな、なんて思ったわけですね。

さて、この試合は良くも悪くも、特に前半、「縦ポン」の目立つ展開となりました。

一般的に「縦ポン」というと、どちらかといえばネガティブなニュアンス、Jリーグ発足前の日本リーグ(=社会人サッカー=NotProfessionalサッカー)という印象を持たれがちだと思いますが、この試合をみる限り、必ずしも一概に、そういうイメージを持つことは適切ではないなぁと感じました。

例えば、前半、非常に多くみられたのが中村俊輔から大黒選手に放り込まれた縦ポン。俊輔は、ピルロ的に、プレスの緩い低い位置から、正確なロングキックを配球しまくるという役割を担っていましたが、その中でも特に目立ったのは、巧みに動きだす大黒選手に呼応して、相手ディフェンスラインとGKの間に、ふわりと一本の縦パスを送り込むというパターン。

これは、明確な意図がありますし、おそらく概ね狙った通りの場所にボールが飛んでいるので、「縦ポン」というには失礼な「縦パス」ですね。インテリジェンスとテクニックを駆使した、実に見応えのあるプレーです。

しかし、マリノスで大黒選手に向かって縦にボールを入れたのは俊輔だけではありません。

例えば、中澤選手。この試合、特に前半はヴィッセルがかなりリトリートしていたこともあり、痺れをきらしたり、セットプレーからの流れだったりして、中澤選手が高い位置でボールをポゼッションするという場面が少なからずありました。

そうすると、オーバーラップしたCBの宿命として、ややこしいプレーは忌避します。中澤選手もまたシンプルに大黒選手に縦パスを入れるわけですが、この場合、俊輔と異なって、「縦パス」というより「縦ポン」感が否めない。狙いすましたというより、とりあえず蹴ってみました的な。

さらに神戸を見てみましょう。

ヴィッセルの場合、相手ディフェンスラインとGKの間に放り込むなんて高等戦術ではない。全体が押し込まれていて、時折カウンターを前線の選手に委ねるしかない。また、全体が押し込まれている分、マリノスが前のめりになっていて、マリノス陣地には広大なスペースがある。だから、神戸守備陣は、無限の大地に向かって、取り敢えずアバウトなボールを蹴り出す。これぞ、古式ゆかしく、それでいて、清く正しい、クラシカルな「縦ポン」ですね。

マリノス@俊輔バージョン、マリノス@中澤バージョン、神戸バージョン、これら全て、「縦のロングキック一本でFWに通す」という意味で、一応「縦ポン」と表現されるわけですが、内実、それぞれで、かなり異なる。一概に「縦ポンが云々」と評することが如何にナンセンスかって話ですね。

マリノスの名誉のために付言するならば、マリノスはちゃんとサイドアタックも繰り返していましよ。金井選手と小林選手の両SBのオーバーラップは、非常に良いアクセントになっていましたし、特に金井選手は何度も何度も深い位置に切れ込み、センタリングを入れていました。

ただ、彼らSBが比較的フリーになれたのも、やはり「大黒の抜け出し」に対する恐怖感からペナルティエリア付近に神戸守備陣が密集してしまっていたことの恩恵でしょう。後半開始から大黒選手を下げて小野選手を投入すると、後半は前半に比べてSBのダイナミズムが減少してしまったように思います。小野選手の場合、引いて貰うプレーが多いので、その分、相手DF陣もラインを上げやすいのかもしれません。

「大黒の抜け出しを目掛けた縦ポン」を失ったことにより、勿論ヴィッセル守備陣のチェックが厳しくなったという要素も無視できませんが、とにかく後半のマリノスは、前半ほど、好き勝手攻めるってことが出来なくなりました。

後半のマリノスの基本形は、「(中澤→青山→中澤→小林→中澤→金井→兵藤→中澤→青山)×3」みたいな状況に追い込まれます。

出しどころがなく最終ラインで回しまくる、みたいな。

ボール保持率が向上する一方で、保持すれば保持するほど手詰まり感が満載になる的な。

ただ、こういう展開になると、逆にマリノスの伝統が生きてきます。井原正巳が種を蒔き、岡田武史が育んだ戦法、それは、「しっかり守って縦ポンorセットプレーで点をとり、そのまま逃げ切る」大作戦ですね。

実際に中村俊輔に代わって投入された狩野選手のコーナーキックからの流れで青山選手が先制点をねじ込んだわけですから、まさにマリノスの伝統は健在だと思わせるに十分でした。

このまま、「ウノゼロ」で終われば何も問題はなかったわけです。しかし、いかにDNAに刷り込まれているとはいえ、岡田マリノスを実体験しているのは、中澤選手の他は、ほとんどいない。その辺りで、どうしても画竜点睛を欠く。終了間際のロスタイム、こともあろうに半ばラッキーパンチ的な同点弾を許してしまいます。これは、「守備を基本に、退屈だけど勝負強い」を身上とするマリノスにとって、許され難いミステイクといえるのではないでしょうか。

マリノスといえば、「しっかり守ってキッチリ勝つ」というイメージが強く、監督が相応に代わりながらも、なぜたか、そこは余り変化してこなかったわけですが、この伝統は、もはや「中澤・栗原コンビ」が続く限りのものになるのかもしれないな、なんて思った一戦でした。勿論それが良いか悪いかは、人それぞれの価値観に委ねられますが。